製茶問屋 白形傳四郎商店
対象12年創業。「お茶の町」静岡市葵区神明町で、製茶問屋として、日本全国はじめ世界各国に販売。社訓「お茶の伝承を守る」、初代遺訓「悪い品を売るくらいなら商いを止めよ」と堅持し暖簾を守り続けている。(写真左)白形和之専務取締役、(同右)製造部 武田好訓部長
茶畑を守りたい!
最初から茶の実の油を搾ろうと始まった訳ではなく、茶の実を何かに活用できないかでスタートした。
僕たちは静岡のお茶屋なので、静岡から茶畑が無くなってしまうのがすごくイヤでどうにかしてこの茶畑を守ろうという所からスタートしました。
茶葉を私たちがもう少し高く買えれば良いんですが、限界がある。
そんな時に茶畑に行って、「さぁどうしようか」となった時、茶畑を見ていると茶の実がついている、「これをなんとか利用できないか」とスタートしたんです。
茶の実を集めて枕にしてみたり、茶の実をそのまま食べてみたり「とにかくまずくてこれじゃダメだ…」と。
そんな時に、お茶の木はツバキ科。椿油がある。だったら茶の実から油が搾り出せるんじゃないか?とそこから全てが始まりました。
まずは茶の実を集める。
茶の実を集めるためには農家さんの協力が必要なんです。
でも、茶の実を付けるために茶の花を咲かせる事は農家さんにとっては赤点のようなもの。
私たちがこういう事をやりたいと思っているという思いをお話ししても・・・
「うちの茶畑には茶の実なんてつかないよ~」
「ふざけるな~」
「うちの茶畑にそんなものなるわけないじゃないか」
すごく叱る方もいたし、初めは協力してくれる方の方が少なかった。
でも、耕作放棄地の問題も出ていたし、農家さんに集まっていただいて丁寧にお話しをし続けました。
4-5月に茶葉の収入、10-11月に茶の実の収入が入るようになったら、年に2回収入がありますよ。
茶の実も一つの農作物ととらえていただいて、秋の収入として原料共有してもらえれば未利用の資源も世に出す事ができる。
「まずは、ついている物だけで良いのです。何とか茶畑を守りたいんです。」
という思いを伝えて少しずつ賛同して、協力してくれる農家さんが増えていった。
始めは半信半疑で茶の実をお持ちいただいた方も「ホントに買い取ってくれるんだ…」と。
茶の実を買い取ってもらってそのままお孫さんと一緒にご飯を食べにいく。
農作物を収穫して販売するのと同じ流れで、喜んでやってくれている人たちも今では増えてきていて、すごく助かります。
油を搾る。
ずっとお茶の加工をやってきて油を搾った経験もない。
どうやって絞れば良いのかも分からない所からのスタートでした。
研究所の方と「こういう事業を始めたいんだけど…」と相談して「茶の実専用の搾油機ではないですが、絞ってみましょうか?」とテーブルテスト的な搾り機で絞ってみたのが初めての圧搾でした。
茶の実をそのまま入れて絞ったら、何も出てこなかったんです。
そこからは未知との戦いでした。
こういう原因があるんじゃないか?
こんな原因があるのでは?
と色々調べてやっと1~2滴出るようになった。
でも、1~2滴出たところで商売にはならない。僕たちもやっぱり企業なのでお金にならないと・・・
そこで、大量に絞るにはどうしたら良いかと研究を続けていきました。
搾る事ができても、クオリティーが悪い。クオリティーを下げずに搾油率を上げるためにはどうしたらよいか?とひたすら研究を続けて、いつの間にか3年掛かってしまった。
最初はほんとに数%だった搾油率がやっと10%台に上がってきて販売できるレベルになってきたんです。
途中でやめようと思ったことは?
それはなかった。
マニュアルがない、文献がない、元になるものが全くなかった。
私自身、製造の立場なので売り上げをどんどん上げなきゃいけないというプレッシャーがなかった。
問題がどんどん出てきても、私たちだけで解決しようとするのは無理でも、専門の先生とか研究所の方とか色々な方が関わってくれてみんなで一つ一つ問題を解決していった。
これから先もまだ問題が出てくると思うんですが、問題をクリアしていく工程がすごく楽しくて、今までホント大変で苦労もいっぱいあったんですけど、それよりも楽しさの方が大きかったから続けてこられたんだと思います。
お茶の実はみんな興味がある、お茶の実には人を引き付ける魅力がある。
今では、施設の方たちにも茶の実を収穫してもらい、選別もお願いしている。施設の方たちの働く場となっている。それがどんどん広がっていくと良いですね。
施設の方たちは、茶の実を集めるのは遠足に行くかのようにすごく楽しそうに茶の実を収穫してくれるんです。
「こういう商品になったんだよ~」
自分たちの作業が形ある物になるという事が嬉しいみたいです。
そういう時、ホントにやってよかったなと思います。
夢はありますか?
お茶の畑もそうなんですが、茶の実の畑が広がるのが夢。
違った景観にはなってくるけれど、お茶に関係する景色が広がり続けて欲しい。
まだまだ、茶の実油の認知度が低いですが、どんどん認知度が上がり「茶の実油」が当たり前の世の中になり、世界的にも活用されたら嬉しい。
お茶の産地、お茶の実の産地としてまた静岡が注目されたら幸せですね。
未知の物だからこそまだまだ可能性を秘めていると思うんです。
まだ始まったばかり、これからは私たちの努力次第。どうやって広げていけるのかこれからですね。