静岡茶は、宇治茶、狭山茶と並ぶ、日本の三大銘茶の一つです。大切なお客さまを迎えるときやホッと一息つきたいときに、こだわりのお茶があると、心がゆったりと落ち着くものです。
日本一のお茶どころとして知られる静岡県では、産地ごとの特徴を活かして多種多様なお茶が生産されています。
静岡茶を来客時や食後に取り入れて、その奥深さを堪能してみてはいかがでしょうか。
この記事では、静岡県がお茶どころとして有名になった理由や静岡茶の主な種類、美味しい入れ方についてご紹介します。
1. 静岡県のお茶の生産量が多い理由
2. 静岡茶の主な種類と味わいの特徴
3. 静岡茶の美味しい入れ方
4. お気に入りの静岡茶を見つけて、お茶の時間を贅沢に
静岡県のお茶の生産量が多い理由
静岡県は一体いつから、なぜお茶の名産地となったのでしょうか。
静岡茶の歴史、銘茶を生み出す気候や風土に触れながら、静岡県とお茶の関係について解説します。
●日本茶と静岡茶の歴史
日本茶は、奈良時代から平安時代にかけて唐(当時の中国)に渡った遣唐使や留学僧によって日本にもたらされたといわれています。
日本茶に関する最初の記述が確認できるのは、平安初期の『日本後記』という文献です。
当時、お茶は貴重な飲み物で、僧侶や貴族階級など、一部の人間だけが飲める嗜好品でした。
鎌倉時代以降は武士階級にもお茶が広まっていきますが、庶民の間に日本茶が浸透していったのは江戸時代以降と考えられています。
静岡県でお茶の生産が始まったのは、鎌倉中期の僧侶・聖一国師(しょういちこくし)によるものと伝わっています。
聖一国師は、宋(当時の中国)からお茶の種を駿河国(当時の静岡県)に持ち帰り、栽培を始めました。
そのため、聖一国師は静岡茶の祖とされ、聖一国師が生誕した11月1日は「静岡市お茶の日」に制定されています。
静岡茶が大きく発展するのは明治時代からです。
明治維新後、職を失った元徳川藩士や大井川の川越人足(かわごしにんそく:旅客を肩や運搬用の台に乗せ、川を渡らせる仕事をしていた人)により、静岡県中西部に位置する牧之原台地の開墾が進められました。
茶畑の面積が増えるにつれて静岡県でのお茶の生産量が大きく伸び、さらに1899年に清水港が開港して海外への輸出が始まってからは、流通経路の発達に伴い、静岡茶は国内外に普及していきました。
牧之原台地はいまでは、茶畑として日本一の広さを誇ります。
こうして、日本一の生産量を誇る静岡茶というブランドが確立していきます。
中でも、静岡県で栽培されているお茶で代表的なのが「やぶきた」というチャノキの品種です。
明治時代に静岡県で発見されたやぶきたは、静岡茶の9割、日本で栽培されているお茶の約8割を占めます。
最初に発見されたやぶきたの原樹は、樹齢100年を超えてなお現存し、静岡県の天然記念物に指定されています。
その後も、各地域が気候や風土に合わせた独自の製法を確立していくことで、静岡茶は品質と多様性の両方を高めていきました。
静岡茶の品質を維持してきたのが職人によって積み重ねられてきた独自の技術です。
茶葉は摘まれた後、「蒸す」「揉む」「乾燥させる」といった工程を経て、荒茶と呼ばれる精製される前の状態になります。
荒茶を作る工程で、蒸しの深さや加熱の度合いを調整することにより、銘茶が誕生します。
手揉み茶や深蒸し茶など、いまでは一般的な製法には、美味しいお茶を作るために試行錯誤を繰り返した先人の知恵が詰まっていると言えるでしょう。
静岡県は一体いつから、なぜお茶の名産地となったのでしょうか。
静岡茶の歴史、銘茶を生み出す気候や風土に触れながら、静岡県とお茶の関係について解説します。
●静岡県の気候、風土
静岡県は、沿岸部が温暖で気候の変化が少ない一方、山間部は寒暖差が激しく、そうした気候の違いが生産するお茶の味の違いとなって現れます。
例えば、温暖な地域では、新茶の栽培が盛んで、香りが良くさっぱりとした味わいが特徴的です。
一方、寒暖差が激しい地域では、昼間光合成をした葉が夜の冷気によって休まり、養分を蓄えられることで、トロッとしたコクと甘みが引き出されます。
そのほか、川霧が発生する地域では直射日光が遮断されるため、葉緑体が多く育まれ、お茶の旨みが増すという点も気候がお茶に与える影響の一つです。
静岡茶の主な種類と味わいの特徴
静岡茶は、産地ごとに香りや味わいが異なり、地域ごとにブランド茶があります。数ある静岡茶の中でも、特に有名な5種類について産地や味の特徴をご紹介します。
●本山茶
本山茶は、ミネラル豊富な土と川霧に包まれた、静岡市本山地区の山間部で生産されています。
色は鮮やかな緑で、口当たりの良い旨みとフレッシュな香りが感じられます。
徳川家康が愛飲していたとされるお茶でもあり、かつては御用茶として徳川幕府に献上されたこともある銘茶です。
●川根茶
静岡県中部の川根地区の山間部で生産されています。
高級茶として知られ、贈答品としても喜ばれるお茶です。
味は薄めですが、トロッとしたお茶本来の甘みと芳醇な若葉の香りが魅力です。
●掛川茶
静岡県西部の掛川市で生産されている深蒸し煎茶です。
生葉から煎茶を作る際、蒸す工程で通常より約2~3倍長く蒸したお茶を深蒸し茶といいます。
深みのある芳醇な香りとコクのある味わいが特徴です。
生産が始まった当時は煎茶が生産されており、葉肉が厚く渋味が強いことが難点とされていました。
しかし、深蒸し製法を開始し、時間をかけてお茶を蒸すことで、渋味を抑えられ、マイルドな口当たりを実現しました。
●天竜茶
天竜川周辺の山林地帯で作られているお茶です。
茶葉は光沢のある濃い緑色で、手摘みされることが多い天竜茶は、高級茶としても名を馳せており、お茶の品評会でも高く評価されています。
爽やかな味わいと透明感のある薄い黄緑色が特徴です。
●両河内茶
静岡市の興津川上流にある両河内(りょうごうち)地区で作られているお茶です。
両河内は知る人ぞ知る銘茶の産地と言われており、お茶を揉む技術に優れた職人によって上質なお茶が生み出されています。
つややかでピンと伸びた茶葉が特徴で、香味の良い浅蒸し茶です。
静岡茶の美味しい入れ方
静岡茶を美味しく飲むために、押さえておきたいポイントが3つあります。
お客さまをお茶でもてなす際に役立つ基本の手順をご紹介します。
●湯冷ましする
まず人数分の茶碗にお湯を入れます。
この工程には、必要な湯量を計る、茶碗を温める、甘みが引き立つなどの目的があります。
お茶の苦味成分であるタンニンは、お湯の温度が高いほど抽出されやすくなります。
湯冷ましすることにより、苦味成分が出すぎるのを抑え、お茶の甘み成分を引き出すことが可能です。
●急須に茶葉を入れてお湯を注ぐ
茶葉は1人約2g、5人分で大さじ2杯が目安です。
人数分の茶葉を急須に入れ、湯冷まししたお湯を注ぎます。
●均等にお茶を注ぐ
茶碗にお茶を注ぐ際は、濃淡の差が出ないように廻し注ぎ(まわしつぎ)しましょう。
一度に注ぐのではなく、それぞれの湯呑みに少しずつ注いでいくことで、濃さが同じになるように調整します。
急須を振る回数を増やすと、より濃厚な味わいを引き出せます。
急須で入れたお茶は、最後の1滴に美味しさが凝縮しているといわれています。
お茶を注ぐときには、最後の一滴までしっかりと振り切るように注ぎましょう。
お気に入りの静岡茶を見つけて、お茶の時間を贅沢に
静岡県の肥沃な土地と寒暖差のある気候は、数々の銘茶を生み出してきました。
日本茶の代表とも言える静岡茶の豊富な種類を知ると、お茶の奥深さを知ることができるでしょう。
お茶好きな人はもちろん、お客さまのおもてなしに適したお茶を探している人は静岡茶から選んでみてはいかがでしょうか。
また、お茶を入れるときは、湯冷ましをしたり、廻し注ぎをしたりするなど、お茶の入れ方にも気をつけてみてください。
茶葉や入れ方にこだわることで、いつもより少し贅沢なお茶の時間を過ごすことができるでしょう。